口腔ケアと誤嚥性肺炎

歯科部長 塩山 司

口の中には多くの細菌が常在しており、体の健康と密接に関連している。
なかでも、う蝕、歯周炎、感染性心内膜炎、誤嚥性肺炎、糖尿病、早産などが注目されてきている。
歯科疾患の主とされる、う蝕や歯周病の発症には、口腔内に常在する細菌群が大きく関与している一方、肺感染症である誤嚥性肺炎は、口腔内の嫌気性菌、微好気性連鎖球菌、好気性菌が起炎菌となって生じることが多い。
つまり、口腔内の細菌は、う蝕や歯周病だけではなく、肺感染症と深く関連している。
さらに口腔ケアは人工呼吸器関連性肺炎(VAP)、細菌性心内膜炎(IE、PVE)、ビスフォスフォネート関連顎骨壊死(BRONJ)、がん看護、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの全身管理の面からも重要視されるようになっている。

口腔ケアとは「口腔の疾病予防、健康保持・増進、リハビリテーションにより生活の質(Quality of Life )の向上をめざした科学であり技術である」(日本口腔ケア学会)と定義されている。
口腔ケアの目的は、1.誤嚥性肺炎の予防 2.口腔疾患の予防 3.QOLの向上。
その効果は、口腔感染症の予防、口腔機能の維持・回復、全身感染症の予防、全身状態やQOLの向上、コミュニケーション機能の回復が挙げられる。

口腔ケアには、歯磨きなどにより口腔内を清潔にして細菌を減らす器質的口腔ケアのほか、捕食、咀嚼、食塊形成、嚥下などの口腔機能を回復させる機能的口腔ケアも含まれる。
機能的口腔ケアにより「口から食べられる」ようになることは、免疫の観点からも注目されている。
経鼻管や胃瘻など非経口による栄養摂取が長期化することで、腸管粘膜萎縮を起こし、さらに感染症への抵抗力の減少を来たすことがわかっている。
つまり、口から食べて免疫力を上げることは、誤嚥性肺炎予防の上でも重要である。

誤嚥性肺炎は、細菌が唾液や胃液と共に肺に流れ込んで生じる肺炎で、高齢者に多く発症し、再発を繰り返す特徴がある。
再発を繰り返すと耐性菌が発生して抗菌薬治療に抵抗性を持つため、優れた抗菌薬が開発された現在でも、多くの高齢者が死亡する原因になっている。
誤嚥性肺炎は、脳卒中や全身麻痺、あるいは麻痺などの症状のない脳梗塞において、神経伝達物質の欠乏によって、咳反射や嚥下反射の神経活動が低下して起こる。咳反射や嚥下反射が低下すると、知らない間に細菌が唾液と共に肺に流れ込み(不顕性誤嚥)、この細菌が肺の中で増殖して誤嚥性肺炎が起こる。
また、胃液などの消化液が食べ物と共に食道を逆流して肺に流れ込み、誤嚥性肺炎が起こることもある。
一度誤嚥性肺炎を起こすと、気道粘膜はなかなか完全には回復しない。
そして粘膜の感覚が鈍くなってしまい、誤嚥しても咳が起こりにくくなり、食物を有効に排出できないためますます肺炎の危険が増大する、という悪循環が起こる。
誤嚥性肺炎予防のための3つの因子として1.口腔清掃により口腔内細菌を減少させる(器質的口腔ケア)。2.口腔リハビリにより捕食、食塊形成および移送、嚥下機能の回復を図る(機能的口腔ケア)。3.経口摂取を可能にして免疫力を高める。
誤嚥性肺炎を予防する背景的な因子として、義歯調整、歯科治療、各疾患の治療、低栄養状態の改善、生きる意欲の向上などがあげられます。
歯性感染症が肺の感染症を引き起こすことは意外に知られていないのが事実である。歯性感染症は、全身感染症の引き金になることを再度確認したい。口腔ケアによる誤嚥性肺炎の予防は医療従事者のみならず、介護・看護の分野においても重要な位置づけとなっている。
高齢化社会が到来し、一方で、耐性菌が市中肺炎にまで拡散した今、高齢者の感染症に対しては抗菌化学療法だけにとらわれない口腔ケアといった積極的な予防戦略が不可欠であると思われます。



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